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考える人が喋るためのブログ

お父さんの話

私にはお父さんがいました。

仕事で毎日朝が早く、帰ってきたらいつも自分の部屋で小説を読むか筋トレをしている人でした。仕事は体力を使う仕事で幼い頃からあまり相手をして貰った記憶はありません。

 

私のお父さんは不器用な人でした。

小さな頃から密な交流をしていなかったから、いざ子供の相手をしようとしてもどうしていいかわからなかったのでしょう。小学生のある日、突然仕事場を見学に来るかと誘われました。臭いしめんどくさかったけど、珍しいお父さんからの誘いに興味が湧き渋々といったフリをしながら付いて行ったことを覚えています。仕事をしているお父さんはカッコよくて、いつもより優しくて楽しかった。

子供に自分の仕事姿を見せるという、テンプレートな父親の姿に憧れを持って誘ったのかもしれません。今考えると、母にばかり着いて回って父親らしいことなんてなにもさせてあげれていなかったな、と思います。

 

お父さんは私のためにとても頑張ってくれました。

私はとてもお金のかかる大学を受験し、合格。入学をしました。あまり裕福でない我が家にとってとても負担だったでしょう。先生と一緒にお父さんに頭を下げてお願いをしました。こういった理由で、どうしても私はこの学校に行きたいんです。私には「じゃあ、頑張れよ」とだけ言ってお金を用意してくれました。

後日先生に聞くと、お金の話と、私の就職先の話を相談してくれていたそうです。私には見せず、とても心配をしてくれていました。

 

私はお父さんが頑張ってくれて、毎日、本当に楽しく大学に通っていました。今思い出しても最高の大学です。

 

あるテストの日のことです。かなり前から気合いを入れて準備していたテストの日でした。

学校に行く準備をしていると朝から誰かが呼び鈴を鳴らします。母が対応します。

こんな時間からなんだろう、そう思っていると訪問者が何人も家に上がってきました。ずかずかずか。警察でした。

泥棒にでも入られたのか?母に聞きます。違いました。じゃあもしかして誰かが盗みを働いたのか?母に聞きます。違いました。

母は言います。「お父さんがストーカーをしたんだ」

 

あー。学校に遅れるなぁ。混乱する頭で、先生に詫びの電話を入れ、学校に到着しベソをかきながらテストを受けました。それはもう見事に散々な出来でした。

 

確か、数日間で釈放されました。あんまり覚えてませんけど。祖父母がお金を出したそうです。

下の兄弟たちは嫌悪感ばかりで全くお父さんについての聞こうとしていませんでしたし、母も話したがりませんでした。

私は母に少しだけ聞きました。なんでも、仕事先の若い女の子に付きまとい、何度も警察から注意を受けたにも関わらず改善が見込めないため拘留されたそうです。母は警察から聞いて話を知っていたから、あの日驚いていなかったんですね。仕事先から話が広がってお父さんの仕事は減っていったそうです。だから最後の方はバイトばかりしていたんですね。お金は大丈夫かと聞いても、大丈夫としか言われなかったので知りませんでした。深く突っ込んで知ろうとしていませんでした。

 

お父さんが帰ってきてから、少しだけ、本人に話を聞きました。理解できないことばかりで、悲しくて、私の質問にお父さんが答えるたびに平手打ちをしました。ずっとお父さんは私の目を見て答えました。最後の質問の答えが、どうしても許せなくてカッとして、首に蹴りを入れてお父さんの部屋を出ました。始めて人に暴力を振るいました。

 

足元がガラリと崩れて、何もかも信じれなくなって、大切なテストも散々で。苛立って悲しくて。

たくさん考え事をしました。

どうしたらよかったのか。もしかしたら私にもどうにかできたんじゃないか。今後お父さんは、私たち他の家族はどうなるのか。

 

質問をした日以来お父さんは家を出ました。母がやり取りをして、母の戸籍にはバツがつきました。父方の祖父母とは連絡が取れなくなりました。私は大学に通い続けて社会人になりました。

 

まだずっと考えています。連絡を私から取れる日が来ればいい、かもしれない。